研究実績の概要 |
筆者は「O-モノアシル酒石酸を触媒とするボロン酸のエノンへの不斉共役付加」を開発しており、その選択性の決定段階である炭素-炭素結合形成の遷移状態の優劣を決定する要因として、非古典的水素結合(以下、NCHB)の存在が重要であることが示されている。NCHBが不斉触媒反応の遷移状態を決める一つの要因であることは、近年の量子化学計算の発展により多数指摘されているが実験的検証はない。そこで本研究では、「本触媒反応系の遷移状態におけるNCHBの関与の解明」により、遷移状態制御の一因を明らかにすることを目指す。最終年度となる平成30年度は以下の成果を得て、現在報文化を進めているところである。 (1)前年に引き続き、スチリルボロン酸のベンゼン環上の置換基がNCHBに与える影響を精査した。その結果、パラ位に電子供与基(メトキシ基)を導入すると、反応速度が増加するもののわずかに選択性が低下し、逆に、電子求引基(トリフルオロメチル基)を導入すると、反応速度が低下するもののわずかに選択性が向上することがわかった。電子求引基によりNCHBが増強した可能性が考えられる。 (2)前年度に有効であることがわかった無水硫酸マグネシウムの添加条件において、NMR測定による本反応の速度論的解析を進めた。その結果、本反応の速度が各基質および触媒の濃度に1次であることがわかった。また、チオウレアやウレアの添加により触媒量の低減化が可能であることも見出しているが、それらの添加剤の濃度には2次であることが示された。 (3)O-モノアシル酒石酸のアシル基として3,5-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシベンゾイル基を導入したものや、O-モノアシル酒石酸の一つのカルボキシ基をエステル化した触媒が、高い触媒活性と選択性を示すことがわかり、同触媒を用いる速度論解析や量子化学計算の検討を行っている。
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