研究実績の概要 |
本年度は、ビスジイミン銅(I)錯体[Cu(dmphen)2]+ (dmphen=2,9-dimethyl-1,10,phenanthroline)の励起状態のポテンシャル面の解析を行った。このビスジイミン銅(I)錯体の励起状態のうち、可視領域に大きな吸光係数を持ち、光増感剤として利用されるのは第三励起状態S3である。このS3状態へ光励起すると、内部転換・項間交差を経て、三重項励起状態T1へ到達し、再び基底状態S0に緩和することが知られているが、その途中の分子 論的機構はよく分かっていない。そこで、2つの配位子がなす角が90度で銅と配位子間の距離が等しくD2d対称性を持つS0状態の安定構造からS3状態に励起した際に、どのような状態や構造変化を経て、T1状態へ到達するかポテンシャル面を解析した。 まず、励起状態ではD2dからC2vやC2へと2つの配位子の対称性を崩した方が安定となった。また、S0状態の安定構造付近のC2vの対称性でS3/S4、S3/S2、S2/S1のエネルギーの順でポテンシャル面の最小エネルギー交差点が見つかり、S3からS1まで緩和がスムーズに起きると考えられる。さらに、S1の安定構造に緩和すると、T1~T4状態との最小エネルギー交差点はエネルギーがより高くなるため、三重項状態への項間交差は起こり辛いと考えられる。これらの結果は、過去の理化学研究所の田原グループの実験結果と一致するものである。 また、類似の光励起ダイナミクスとして、Au3錯体のポテンシャル面の解析も進めている。Au3錯体は基底状態ではAu3つが折れ曲がり緩く結合した状態だが、光励起によりAu3つが直線状になり、また強く結合することが知られていが、その途中のメカニズムはよく分かっていない。そこで、基底状態と励起状態のAu3錯体のポテンシャル面の解析を行っている。
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