本年度も昨年度に引き続き、様々な分子の光物性の解析を行った。まず、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)の励起エネルギーの溶媒依存性を解析した。TCNQの励起エネルギーは溶媒の違いにより特異な挙動を示すことが実験的に知られていたが、その理由は不明であった。これまでの我々の量子化学計算と分極連続体モデルを用いた解析で、実験結果の定性的な傾向を再現することには成功したが、定量的な再現はできなかった。この原因として、溶媒の記述が不十分であることが考えられる。そこで、分子動力学シミュレーションとQM/MM法を用いて解析を行った。その結果、概ね実験結果を定量的に再現することに成功し、周囲の溶媒分子も量子化学的に取り扱うことが重要であることが分かった。しかし、一部の溶媒では実験結果と少し異なっていたため、計算条件の検討を含めた詳細な解析を引き続き行う予定である。また、新規ジテルペノイドの比旋光度の解析を通して、立体構造を解析した。インドネシアのBogor Agricultural UniversityのNovriyandi Hanifのグループにより新たにジテルペノイドが発見されたが、その立体構造を実験で完全には決定できず、1つの不斉炭素の絶対配置が不明であった。そこで、計算で得られた比旋光度を実験値と比較することで、立体構造の決定を試みた。比旋光度は化合物の立体配座に大きく影響するため、GRRMアルゴリズムを用いて立体配座を探索し、それぞれの自由エネルギー差を考慮して比旋光度を計算した。計算で得られたS体の比旋光度は、R体のそれよりも実験結果と近かった。したがって実験で得られた新規ジテルペノイドはS体であると考えられる。
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