研究課題/領域番号 |
16KT0167
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
寺本 高啓 立命館大学, 理工学部, 助教 (40467056)
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研究分担者 |
長澤 裕 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50294161)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 超高速分光 |
研究実績の概要 |
近年のレーザー技術の発展に伴い、パルス幅が10fs以下の超短パルス光を発生することが容易となりつつある。超短パルスを用いて過渡吸収分光を行うと、分子の振動周期よりもパルス幅が短いため分子が励振され、時間領域の過渡吸収スペクトルに信号の変調として分子振動が重畳される。そのため超短パルスを用いた超高速分光から電子状態の緩和ダイナミクスに加え瞬時的に起こる分子振動モードの変化や動的な相互作用の詳細を明らかにすることができる。 申請者はこれまでにピコ秒レーザーを光反応開始光源として用いた、ダブルポンプ・プローブ型の超高速分光システムの開発を行った。これにより、光励起から100ns経過した後の3重項電子励起状態にあるChrysene分子や6-nitroBIPSの光開裂反応の結果生成されるmerocyanineの超高速分光を行うことに世界で初めて成功した。このように申請者は光化学反応のフェムト秒の励起ダイナミクス、反応中間体、反応生成物の超高速分光に成功している。しかしながら、超高速分光で観測する時間レンジに関しては申請者が構築したシステムの1msが世界最長であり、それ以上長い時間レンジの研究報告例はない。 合成化学などの化学反応は、ミリ秒以上の長い時間スケールで反応が進行する。この反応は遷移状態理論を用いた統計的アプローチ、マクロな速度論で記述できる。しかしミクロには反応中もフェムト秒の時間スケールで分子は正に振動しており、その遷移状態の鞍点を越えようとしている瞬間を目撃するのは化学に携る研究者の夢であるといえる。 本研究では、ラピッドスキャン法と光シート顕微法の併用による多波長同時計測可能なリアルタイム超高速分光法の開発を行い、光化学反応のみならず熱化学反応など秒、分、時間、日などのタイムスケールで起こる化学反応をリアルタイム計測ないし制御することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、可視超短パルスレーザーの高強度化および計測・制御系の高速化を行った。 可視領域(520 -760nm)の超短パルスレーザー(パルス幅 <10fs)を有している。本研究で構築予定の2次元分光では、4波混合信号を得る必要があるため用いるレーザー強度はより高強度であるほうが望ましい。そのためレーザーの高強度化について検討した。レーザーの高強度化のため、pump光の波面傾斜による光パラメトリック過程における位相整合条件の改善を考えた。正三角プリズムを光パラメトリック過程におけるpump光(波長400nm)の光路中に導入し、pump光の波面を傾斜することを行った。その結果、プリズムに対する入射角を調整することにより、位相整合を満たす波長が変わることがわかった。その結果、従来の10倍程度のレーザー強度を得ることに成功した。ただこのとき、レーザーのパルス幅が12fs程度と若干パルス幅が伸びてしまった。おそらく光パラメトリック増幅時における非線形光学結晶に起因する高次の分散の影響であると考えられる。対策としてパルス圧縮部分におけるプリズム対の距離および入射角を調整することにより、パルス幅を10fs程度に圧縮することができた。 実験の測定時間が長期化すると、レーザーの不安定性(強度、スペクトル、位置安定性など)により、欲しい信号にそれと同等あるいはそれ以上のノイズ成分が含まれ問題となる。そこで、この制御システムの見直しを行った。ハードウェアは従来と同じであるが、LabVIEWで構築した制御プログラムに様々な新しい機能等や関数を導入し高速化を図った。その結果、従来と同じ実験条件に要する計測時間を1/10の6分に短縮することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築してきたシステムを用いて、化学反応のリアルタイム計測を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度研究計画に則り、予算執行を行った。物品購入の際、業者との値引き交渉の結果、予算を削減することに成功した。その残額が生じたため来年度に持ち越すことを検討している。
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