研究課題
植物細胞の形態は個々の細胞機能を構造面から支えるだけでなく、組織や器官の形態を決定するための重要な因子となる。細胞壁で囲まれた植物細胞の形態形成過程は不可逆的に進行することから、常に厳密な制御が必要とされる。中でも細胞極性の確立は植物細胞の複雑かつ精緻な形態を生み出すために欠かせない過程であり、その機構を解明することは真核細胞全般の形作りを理解する上でも有用である。本研究課題では、根毛細胞の形態形成過程に起こる平面内極性の確立という現象に焦点を当て、細胞膜上のシグナル因子で構成されるその機構を明らかにする。根毛は根の表皮細胞の表面の一部が先端成長することにより生み出される構造体である。その発生過程では最初にバルジと呼ばれる突起が形成されるが、そのバルジ形成の位置は表皮細胞表面上の根端付近に厳密に定まっている。そこで、バルジ形成位置の決定に関して、ホスファチジルイノシトール5ーキナーゼ(PIP5K)、PIP5Kにより産生されるホスファチジルイノシトール4,5二リン酸(PIP2)、および植物のRhoファミリーGタンパク質であるROPによるフィードフォワードループを中心とする平面内極性確立のための分子機構を想定した。そして、そのモデルについて計算機によりシミュレーションを行い、これまでのシロイヌナズナ変異体や形質転換体の根毛の表現型、および各シグナル因子の細胞内動態に関する知見との整合性を確認した。このモデルを形質転換植物系による構成的実験で検証する目的で、PIP5K、ROPなどを根表皮細胞において異所的および誘導的に発現させるための様々な遺伝子を作成し、それらを野生型および変異体シロイヌナズナへ導入中である。
2: おおむね順調に進展している
計算機によるシミュレーションではPIP5KとROPによるフィードフォワードループの関与の可能性が示されており、今後それを実験的に検証する。これは当初の計画通りである。また、検証実験のための形質転換植物の作成も進んでいる。このように、研究は全体としておおむね順調に進展していると考えられる。
当初の計画の通り、29年度以降は形質転換植物を用いた検証実験が中心となる。検証実験の結果をもとに更に形質転換植物を作成するというサイクルをできるだけ多く行うことによりモデルの適正化を進め、最終的にPIP5KとROPによるフィードフォワードループが重要であることの証明を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Plant and Cell Physiology
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