研究実績の概要 |
本研究では, 記憶の分子実体を捉えるため, 分子実体と予想される生体分子の活性の時間パターン変化をIn vivoで定量化すること, 及び, その定量的データをもとに, 分子活性を人為的に操作することにより, 記憶を人為的に構築することを目的としている. 当年度では, 前者の定量化のための実験系構築を試みた. 過去の研究から分子実体と予想されている分子の活性を測定するためには, 通常, 蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)を利用することが一般的であることから, まずそのための種々のDNAコンストラクトを作製し, 線虫へ導入した. その結果, これらのコンストラクトには当該生体分子の基質を含むが, この基質部位を含んだDNAは線虫で発現が見られず, 基質部位のみを除去したDNAでは発現が見られた. この結果は, 基質部位がドミナントネガティブとして働き, 内在性の基質の機能を阻害している可能性を示唆していた. したがって, 現在, 新たな定量化実験系の構築を試みている. 一方, 準備段階の研究から, 当該生体分子から遺伝子発現調節を受ける遺伝子の1つとして哺乳類のAMPA受容体の線虫オルソログglr-1を同定していた. さらに, このglr-1は自身の発現によりフィードバック調節を受ける可能性を得ていた. そこで, glr-1遺伝子を過剰発現させ, 内在性のglr-1遺伝子の発現量が変化するかどうかを確認することにより, フィードバック調節の可能性を検証するため, glr-1遺伝子を過剰発現させるためのDNAコンストラクトを作製した. 現在, このDNA導入し, 内在性のglr-1遺伝子量を定量化している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
定量化実験系の構築で, 外部からのプローブの遺伝子導入が, 内在性の基質の機能を阻害するという問題が予想外に発生した. したがって, この問題の解決に時間を要していることが, 現在の達成度が当初計画より若干遅れている理由の1つである. この問題のため, 新たな定量化実験系の構築が必要となったことから, 現在, 当該生体分子からの機能調節を受ける分子の遺伝子発現量を指標とし, 当該生体分子の活性を定量化する実験系を構築している.
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今後の研究の推進方策 |
現在, 構築中の定量化実験系をまず完成を目指す. そして, この実験系により, 当該分子の活性の時間パターン変化に関する定量的データを取得する. また, 当該分子の活性は, 記憶過程で低下することが示唆されており, 記憶過程における定量化も実施する. これらの実験系とともに, 当該分子から遺伝子発現調節を受ける分子の発現量を操作するツールが完成に近づいていることから, 実際にこのツールの応用を目指す. 一方で, 引き続き, フィードバック制御の可能性を検証し, 仮に記憶過程でフィードバック制御が成立している場合, この論理ゲートを実装した数理モデルを作製する.
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