研究実績の概要 |
本研究では, 自らの分子遺伝学的実験により, 記憶形成に関わることが示された分子とその下流遺伝子の発現に着目し, それらを人為的に光制御し, 記憶のためのトレーニングを行なっていない線虫に対し, 人工的に記憶を形成させることにより, 記憶形成の実体分子を明確にすることを目的としている. 準備段階の研究から, 哺乳類のAMPA受容体の線虫オルソログglr-1とMAPキナーゼがフィードバック制御を成立し, その分子活性の経時的変動が, 記憶の媒体である可能性が示されていた. 平成28年度までに, この経時的変動を計測するため, glr-1遺伝子の発現を定量化する方法を開発した. 実験系としてはglr-1遺伝子の直下に半減期の短い不安定化型EGFPを連結したレポーターDNAを線虫のAVAニューロンに発現させた. 平成29年度では, 自ら開発した光学顕微鏡により, 自由行動中の線虫のレポーター活性を定量化した. その結果, EGFPのシグナルに変動が見られた. しかしながら, この変動は不規則であることから, 単純に計測時の自由行動している線虫の蛍光輝点のフォーカスのズレに起因したものである可能性もあり, 現在, 束縛固定した線虫において, このレポーター活性の経時的な定量化を試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
記憶媒体と予想される分子の経時的変動を計測するための線虫と顕微鏡の作製は終了しているものの, 当初予定では経時的変動の操作に取り掛かり始める予定であったことから, やや進捗は遅れている. この遅れは初年度の計測系確立時のトラブルを引きずったものであり, 平成29年度の研究そのものは順調であったと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
現在, 束縛固定した線虫の経時的変動を確認し, その変動パターンが自由行動中(非束縛下)の線虫と同じパターンを示すのかどうかを確認している. この結果をもとに, 束縛下もしくは非束縛下において網羅的に変動を確認する. 一方, 既に完成済みの glr-1の遺伝子発現を制御するツールを用いて, 実際に変動パターンの操作を行う. この操作の表現型として力学刺激応答行動を観察し, 記憶の人為的形成が達成されているかどうかを確認する. さまざまなタイミングで光刺激を加えることで, 変動パターンを操作し, その結果が, 数理モデルから予想される結果と一致するかどうかを確認し, 最終的に記憶形成を表すモデルの提唱を目指す.
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