研究実績の概要 |
本研究では, 分子遺伝学的実験とイメージング, 数理シミュレーションにより, 記憶形成の実体分子を明確にすることを目的としている. そのため, 記憶形成に関わることが示された分子とその下流遺伝子の発現に着目し, それらを人為的に光制御し, 記憶のためのトレーニングを行なっていない線虫に対し, 人工的に記憶を形成させることにより, あたかもトレーニングを行なったかのような状況を創り出すことを目指している. 準備段階の研究から, 哺乳類のAMPA受容体の線虫オルソログglr-1とMAPキナーゼの間に負のフィードバック制御が成立し, その分子活性の経時的変動が, 記憶の媒体である可能性が示されていた. 平成29年度までに, glr-1遺伝子の直下に半減期の短い不安定化型EGFPを連結したレポーターDNAを線虫のAVAニューロンに発現させ, 束縛固定した線虫において, このレポーター活性の経時的な定量化を試みた. この実験の結果, レポーター活性の変動は見られたものの, ノイズの可能性が高いことが示された. そこで平成30年度では, 一旦, フィードバック制御の有無そのものを見直し, より直接的な方法で検証することを試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仮にglr-1を介した負のネガティブフィードバック制御がある場合, その細胞においてglr-1の量を人為的に増やした場合, 全glr-1量を恒常的に維持するため, 内在性のglr-1の量が減少すると期待できる. そこで, まずゲノム上においてglr-1遺伝子座の下流にEGFPが挿入された線虫を準備した. 次にこの線虫に染色体外アレイの状態でglr-1遺伝子を過剰発現させ, EGFPの量の増減を見るための実験系を整備した. またそのため, 共焦点顕微鏡システムをセットアップした.
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今後の研究の推進方策 |
現在, 作製した線虫を利用し, 共焦点顕微鏡システムにおいてEGFPの量の変化を定量化している. 具体的には, AVA細胞におけるrig-3p::glr-1 cDNAの有無におけるEGFPの量の変化の違いを追っている. 仮にEGFPの量の違いが認められた場合, glr-1を介したフィードバック制御がやはり存在すると実証されるため, その場合は, 数理モデルを作製し, glr-1発現量の時間変動を再度定量化する. そして, その結果をもとにglr-1の量を光制御するための光刺激の時間パターンを検証する. 一方で仮にEGFP量の違いが認められない場合には単純に光制御するのみでglr-1の量を変えられると考えられることから, 直接, 従来のゲノム編集技術を用いた光制御を行う.
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