研究課題/領域番号 |
16KT0176
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
矢野 十織 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10648091)
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研究分担者 |
川村 将仁 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (10408388)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2022-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 器官形成 / 器官サイズ |
研究実績の概要 |
本年度は前年度に引き続き、器官(鰭)サイズや骨格パターンの調節に係る「骨形成」に着目して(1)~(2)の研究を遂行した。 (1)本課題の主軸としてきたカルシウムイオンシグナルは、既報の胚発生期のみならず、本課題で対象とする成魚期においても器官サイズ調節に重要であることは過年度実績から明らかであった。一方で器官形成・再形成(再生)過程の初期にカルシウムイオンシグナルを感知した細胞・組織が、最終的な骨形成に至るまでどのような分子メカニズムを経るかについては、カルシウムイオンの重要性を鑑みても多岐にわたることが想定され、この一端を明らかにする挑戦的課題として本研究を位置づけていた。計画当初の(i)鰭組織の欠損とその再生モデルのみならず、(ii)頭蓋骨穿頭と修復モデル、(iii)鰭条骨骨折と修復モデルなど、解析対象を適宜広げながら、組織損傷後0秒後から骨形成(約7日後)に至るまでの再生現象を過年度セットアップ済みの素過程解析法に当てはめて本年度は解析した。このうち鰭条骨の骨折修復過程において、骨折後2日にカルモジュリン結合タンパクの一過性発現上昇が検出され、骨格パターン異常個体においてはこれが起こらないことを見い出した。 また、(2)鰭の骨全体長を指標として鰭サイズを評価する新手法を昨年度開発したが、このなかで骨全体長を調節する候補因子として、タンパクとして翻訳される遺伝子群と転写後修飾に関わるmicroRNA群とに分けて別個解析を行った。ゼブラフィッシュの器官形成における先行研究において、これまで着目されてこなかったmicroRNA群に本年度は特に着目した。骨全体長に応じた発現量変化を示すmicroRNAを複数同定するに至ったが、これらCRISPRant(F0モザイクノックアウト個体)の骨形態評価ではこれまでに骨形態に変化が見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
パッチクランプ法による細胞内カルシウムイオン動態評価が本研究計画の1つに位置付けられているため、本年度は助成期間の延長を許可いただいた上で継続研究を行っていた。しかし研究室外の研究分担者とともに研究室外施設で行う解析のため、本年度は綿密な交流を行うことができず、2021年1月に初めてパッチクランプ装置の調整を再開することが可能となり、研究分担者と直接会って現在調整している段階である。 2019年夏より、ゼブラフィッシュ個体の生育不具合が各水槽内で単発に生じ始め、2020年度は施設全体で胚発生異常(心浮腫)と成魚異常(松かさ状浮腫)が生じ、野生型および過年度作製の遺伝子組換え個体を用いた実験・系統維持が年度を通じて困難となり研究遂行に遅延が生じた。2020年7月に理化学研究所より野生型を新規導入し、加えて飼育環境設備の見直しを試みた年度であったが、2021年4月よりほぼ改善しつつある。 パッチクランプ解析手法以外で得られた成果について、まだ論文公表に達していないため、総合的にみて本課題の進捗状況は遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行う予定であったパッチクランプ解析が研究室外で行われるため、所属機関ならびに研究室内ルールに則って、安全に研究遂行することが次年度可能であると研究分担者含めて判断された。したがって2021年度も引き続き本課題のパッチクランプ解析を遂行し、器官損傷シグナルを検出する系の確立を目指す。 また(1)で得られたカルモジュリン結合タンパクの解析は、本課題のインプット(カルシウムイオンシグナル)からアウトプット(骨形成・器官形成)までの連続性を説明しうる重要な発見である可能性がある。ゼブラフィッシュ骨折後2日は炎症反応が小康状態となり、細胞外マトリックスの再分泌が始まる前の「形態再構築準備段階」であり、ここに細胞内カルシウム濃度調節がおきているかを確認する必要があると考えられる。そこでカルモジュリン結合タンパクをコードする遺伝子の欠損個体を作製し、過年度セットアップの素過程解析手法で検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
パッチクランプ解析に係る経費は、研究分担者と相談の上、機器セットアップ後に本格使用する際に使用することに決めている。本年度は機器セットアップができなかったため、使用計画申請通りに助成金を使用するのは次年度となる。またその他解析の経費も本年度使用予定であったが、ゼブラフィッシュ個体管理の不具合から実験・解析が計画通りに遂行できなかった。ゼブラフィッシュ胚の発生異常(心浮腫)と成魚異常(松かさ状浮腫)はどちらも2021年4月以降の施設環境の見直しで現在ほぼ改善している。したがって次年度は本年度使用を予定していた助成金に基づいて解析が可能である。
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