研究課題/領域番号 |
16KT0184
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岡本 由美子 同志社大学, 政策学部, 教授 (00273805)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2022-03-31
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キーワード | SDGs / フェアトレード / 国際認証制度 / ジェンダー平等化 / well-being / 社会的インパクト評価 / フードセキュリティー / 小規模農家組合 |
研究実績の概要 |
研究5年目は、2つのことを行った。まず第一に、社会的インパクト調査の具体的な調査手法について、さらに詳細に学んだ。その知識を活用し、委託調査を通じて、フェアトレード(FT)を含めた国際認証制度の小規模農家組合員に与えたインパクト調査を行った。第二に、組合長に対して詳細なインタビュー調査を行い、2019年度までに得られていた調査結果の理解をさらに深めた。 その結果、以下のことが明らかとなった。まず第一に、国際認証制度の存在は、収入の安定・増加のみならず、女性の地位向上、社会面での充実、環境への意識の高まり等により、SDGsの達成と人間の幸福感の向上をもたらす可能性が高いことが明らかとなった。具体的には、国際認証制度の中でもFTは組合の結成とあらゆる面での差別撤廃を求める国際基準であるため、FTをきっかけにしてジェンダー平等化が進展していることが分かった。これに加え、国際認証制度の存在により、環境に対する意識の劇的な向上が明確となった。収入の増加は確実に子供の教育や医療への支出の増加に向けられているが、これは必ずしも組合員の特徴だけではなく、純粋なインパクトとは言えない可能性はある。最後に、国際認証制度の取得を通したコーヒーの生産・販売に取り組む小規模農家組合員の方がメンバー以外の農家に比べ、確実に、well-beingの向上に繋がっているとの調査結果を得た。 しかし、国際認証制度はいい面ばかりではない。もちろん、これは国際認証制度を取得した組合員だけの問題ではないが、コーヒーの価格が安定、又は、上昇することによって小規模農家がコーヒー生産に特化してしまい、それまで、自家生産をしていた食糧生産を減らす傾向が明確となった。フードセキュリティーの問題の深刻さが明らかとなった。今後は国際認証制度の負の側面を考慮に入れながら制度設計を行う必要性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年度研究開始当時、以下の4つの研究目的・目標を掲げた。研究目的1. GVC革命が途上国の経済発展に与えるマクロ的な影響を実証的に明確化、研究目的2. GVC革命による新しい格差問題の発生確率とそのメカニズムの解明、研究目的3. GVC革命によって途上国が直面する新たなリスクの種類とそのインパクトの推計、研究目的4. GVC革命に対応した新しいガバナンス体制の模索、であった。 5年間の研究目的はほぼ達成された。2020年度は、研究目的4の、WTO体制の下推進される自由貿易を補う制度として、国際認証制度の評価を行った。当初、インタビュー調査を通した質的調査のみで行う予定であったが、委託調査を通して社会的インパクト調査を実施できることになり、量的・質的両調査を通して、国際認証制度の役割に迫った。 新型コロナウイルスの影響で委託調査の依頼手続きと実施に時間がかかってしまったため、調査結果の詳細な統計分析と英語論文の執筆は2021年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、社会的インパクト調査結果の統計的分析を終え、英語論文1本を執筆する予定である。2021年度秋に開催される、日本国際開発学会で発表をする予定である。また、英文雑誌への投稿を予定している。 さらに、この5年間の研究成果を1つの書籍にまとめる予定である。本のタイトルであるが、変更の可能性はあるが、『グローバル・バリュー・チェーンの功罪:持続可能な社会構築を目指して』とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度、2020年度、新型コロナウイルスの影響でアフリカのウガンダで現地調査ができず、委託調査に切り替えたが、現地側に委託調査を依頼する手続き、及び、その実施に時間がかかってしまい、年度内に、詳細な統計分析と英語論文の執筆ができなくなってしまったため。 2021年度は、上級インパクト調査手法のセミナーの受講、委託調査費の支払い、及び、英語論文の校閲費に使用する予定である。
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