本研究は、研究が希少な国際開発援助関係者の「人レベル」の経験に焦点を当て、彼らの人的・知的繋がり、複数の受入国の人々との繋がりの形態と維持、その繋がりを通じた知識の拡散・変容を丁寧に掘下げて分析し、人の国際移動とそのネットワーク形成の実態とその影響についてグローバルな視点から考察することを目的とした研究であった。 2019年度は、主に追加データの収集および成果の対外発信に努めた。追加データについては、ソロモンで開発事業に従事する日本人の実務者数名の協力を得ることができ貴重な情報を収集することができた。対外発信としては、研究の最終年ということもあり積極的な発信を心がけ、三つの国際学会で発表する機会を得た。 これまで収集したデータの分析から得られた成果として、1)開発実務者はそのキャリア形成過程において異なる知識(例:地域、専門分野)を蓄積し固有の専門性を身に着けてきていること、2)身に着けてきた経験や知識を実務者が派遣された国の事情や事業内容に応じて意識的・無意識的に活用していること、3)ある特定の地域での事業終了後も実務者が現地カウンターパートとSNSなどで繋がっていること、などが明らかになっている。開発事業における仲介者(Catalysts)としての開発実務者個人の役割や影響を明らかにしつつある本研究の成果によって、途上国が抱える諸問題、援助効果、費用、政策に主眼が置かれがちな国際開発分野の研究において、学術および実践の両面において新たな視点を提示できるものと考えている。また、モビリティと知識移転の関係については、国際開発分野のみならず移民研究、モビリティ・スタディーズ、経営学(マネージメント)といった分野への示唆もあることから、更に分析を深めて論文としてまとめ、関連する英文学術雑誌等に投稿する予定である。
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