「人工物を強化するための社会的制約条件」のこの3年の研究において、人工物というシステムの外部環境にあたるものの制御に焦点を当てる(いわゆる環境問題)のではなく、人工物そのもののいわばメンテナンスを一般的に論じることが中心問題だということを見てきた。それを踏まえて最終年度では、「一般メンテナンス学」を構築するために、どのような社会システムを問題にすべきかを考えてきた。 もともと、時間的に複雑さを示す系において、現在まで個別に行われている対処法はいわゆるメンテナンスとして様々な工学分野でそれぞれ行われている。この問題の基本的な社会的対処として、故意でなく過失に焦点を当てることがまず必要となる。そのうえで、市民社会で使われた所有権によるコントロールができにくい状況を抽出した。結果的には不法行為法の問題として法学内部でここ数十年取り上げられてきた問題を技術論の立場から見直すことになった。 研究に直接関連する学会発表は、「サステイナブルな社会に向けての技術論」応用哲学会第10回年次大会 2018年4月7日と「人工物の強化に社会制度はどう関わるか」機械学会年次大会 2018年9月10日「人工物に関わる所有権」日本科学哲学会 立命館大学 2018年10月14日の3つであり、関連する発表を記念講演として行った。「工学倫理」第20回岐阜県建築鉄骨技術交流会 2018年10月6日、「工学倫理について -設計の考え方と工学倫理の考え方はほぼ等しいー」設計工学会関西支部創立50周年記念特別講演 2018年12月15日。そして、これまでの研究をまとめて、それに続くものとして「テクノロジーにおける個別化の論点」応用哲学会2019年4月21日を発表している。 実際上研究の枠組みを展開することは、短時間の学会発表ではできず、『事故の哲学』講談社メチエ(2019)でその概要を論じ、公表することになった。
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