本研究では,嚥下診療に関して,「食品テクスチャー」について食品科学的観点から検証し,臨床上の注意点を見出した.また,近年導入されつつある,高解像度咽頭食道内圧計(HRM)の臨床応用について検討した.さらに,嚥下機能を4次元的に解析する嚥下CTの臨床応用について開発を進めた. まず,嚥下食の調整に不可欠な増粘多糖類(ゲル化剤)による食品テクスチャーへの影響を検証し,テクスチャー特性に影響する多くの因子を確認した.さらに,ゲル化剤の使用量で硬さを調節しても,嚥下調整食コードと対応しない場合があり,各ゲル化剤の特徴を十分理解した上で,臨床使用する必要があることを示した. 次に新規嚥下機能検査であるHRMを用いて,新たな臨床所見を発見した.特に神経筋疾患であるMSAにおいて,UES静止圧異常と非協調性の上部食道内圧反応(ADPEC)を高頻度に認め,MSAの特徴的な病態生理学的HRMF所見である可能性が示唆された.食道運動障害については患者本人の自覚症状が乏しいことが多く,医療者側がに十分留意しなければならない.さらに誤嚥防止手術の術式選択においてHRMでの評価が重要であることを示した.誤嚥防止手術前にHRMでUESの圧上昇や開大不良を認める場合,UES開大効果の高い術式が推奨される. 最後に,4D-CTの臨床活用について,多くの症例のデータをもとに有効な活用法を見出した.睡眠時のダイナミックな気道評価や嚥下時の声門閉鎖状況の確認など、通常は「見えない」所見を「見える化」できることがポイントである.そこで,嚥下CTをより簡便かつダイナミックさを体感するためにバーチャルリアリティー(VR)化を進めた.DICOMデータをVRシステムに導入するだけで立体画像を再構成するようにプログラム化した.これにより,CTでの連続撮影画像データがあれば,短時間に立体構造変化を可視化させることが可能となった.
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