研究課題/領域番号 |
16KT0194
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
津元 国親 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70353331)
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研究分担者 |
倉智 嘉久 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30142011)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教(学内講師) (80396259)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 生理学 / 循環器・高血圧 / 細胞・組織 / 生物物理 / ソフトコンピューティング / 興奮伝播 / 心筋細胞 / 活動電位 |
研究実績の概要 |
本研究は、致死性不整脈発生のきっかけとなる期外刺激(トリガー)の発生機序を計算的に理解し、その発生予測を可能とする方法論を開発することにある。心筋細胞におけるナトリウム(Na)チャネルの機能低下を病因とする遺伝性不整脈疾患(ブルガダ症候群)を主なターゲットとしている。本年度は、ブルガダ症候群における不整脈発生をトリガーすると考えられているPhase-2リエントリーの発生機序の解明と発生条件の定量化を実施した。心筋細胞体側面膜からの選択的なNaチャネル発現の減少が、ブルガダ症候群患者にみられる不整脈の発生に関与することが指摘されていた。ヒト心室筋活動電位モデルを用いた心筋線維モデルにおける興奮伝導シミュレーションを実施し、Naチャネルの局所的発現変化とPhase-2リエントリー発生との関係を理論的に示すことができた。 次の段階としては、Phase-2リエントリーの発生から心室頻拍・心室細動へと至るそのメカニズムを理解することである。心室頻拍・心室細動の実体は、心筋組織上を旋回する興奮波、およびその旋回興奮波のランダムな分裂・融合の繰り返しにある。そのため、心室頻拍・細動を再現するためには、少なくとも2次元的な広がりをもった心筋シートモデルの構築が必須である。本年度は、生理的興奮伝播速度を達成できる心筋シート理論モデルの構築を目標に、細胞形態や組織内細胞配列などを試行錯誤しながら、構成したモデルの生理学的妥当性を評価した。その結果、心筋細胞長軸方向とその横断方向での興奮伝播速度比が3:1となる生理学的な心筋シートモデルが構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる目標であった、Phase-2リエントリーの発生機序の解明と発生条件の定量化は予定通り完了した。加えて、心筋線維間にgap-junction機構と膜電位干渉効果を導入した新たな心筋シートモデルを構築した。当初は、心筋線維横断方向のgap-junction機構による電気的相互作用を強めることで生理的な興奮伝播現象の再現を試みたが、gap-junctionコンダクタンスを非生理的条件とした場合でも、理想的な興奮伝播速度を達成することができなかった。そこで、心筋線維の分枝構造を模擬した組織内細胞配列を導入し、心筋細胞長軸方向のgap-junction機構による電気的相互作用を調整することで、理想的な興奮伝播速度を達成できることを見出した。本年度の研究により、プロトタイプとなる心筋シートモデルの構築を完了した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果を基に、細胞内Naチャネル発現分布パターンが異なる2つの細胞群を2次元心筋組織モデル上に適切に配置し、興奮伝播シミュレーションを実施する。phase-2リエントリーの発生からスパイラルウェーブリエントリーへ自発的に移行するための条件を、活動電位持続時間長の異なる細胞群(細胞内Naチャネル発現分布パターンが異なる)の組織上での分布の点から検討を行う。また同時に、疑似心電図を計算し、実際のブルガダ症候群型心電図と対比させながら、現象の妥当性を評価していく。これまでの予備的なシミュレーションから、計算時間の大幅な延長が予想される。効率的な計算アルゴリズムの導入を検討するなど、計算時間の短縮化に向けた改善も併せて実施する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
機関の有する大型計算機設備を利用して、心筋シートモデル構築のための試行錯誤的シミュレーションを実施し、その基礎データを収集する計画であったが、予想外にも、現有設備のみで、組織モデルの構築が完了できた。そのため、28年度の研究費に未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に変更はない。前年度の研究費も含め、必要に応じて研究費を執行し、当初の予定通り計画を進めていく。
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