高解像度CTの普及により、早期の肺がんを検出できるようになった。しかし再発リスクが低い早期肺がんに対して外科的手術を伴う治療を行うべきか難渋する場合があり、過剰な診断・診療が問題になっている。本研究では、肺がんの中で最も発症頻度が高い肺腺がんに着目し、前がん病変(AAH: 異型腺腫様過形成)からAdenocarcinoma in situ、微小浸潤肺腺がんまでの経時的に観察されるがんの進展過程における遺伝要因並びに環境要因との関連を明らかにするための基盤情報の取得を行った。 国立がん研究センター中央病院にて外科的手術を受けた症例の内、同研究所バイオバンクにて保存されている凍結組織検体30サンプル(浸潤性肺がん、Adenocarcinoma in situ、非がん肺組織が同時に揃った10症例分)を選択し、凍結組織検体よりDNAを抽出した。またこれらの症例に対する診療情報などの収集も合わせて行った。まず主要なドライバー変異を同定するために、50遺伝子のホットスポット変異を検出できる Ion AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2を実施した。10症例の内3症例の浸潤性肺がんにおいて、アジア人で高頻度に検出されるEGFR変異型を検出し、一部TP53体細胞変異も同時に検出した。一方で、Adenocarcinoma in situではTP53体細胞変異を認めなかった。この結果は、既に報告されている欧米の結果や今までの散発症例で報告されていた結果と類似していた。症例数が少ないため、特徴的な環境要因との関連は認められなかった。今後は、多数検体を用いた次世代シークエンス解析を実施し、腫瘍内の異種混在の程度などを検討していく予定である。
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