研究課題/領域番号 |
16KT0199
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
惣谷 和広 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 室長 (80415207)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 大うつ病障害 / in vivo2光子脳機能イメージング / 診断バイオマーカー |
研究実績の概要 |
現在、うつ病疾患の解明は大きな課題となっている。しかしながら、うつ病疾患の診断は、医師による患者の主観的症状の判断や問診に基づいており、生物学的所見に基づく定量性や客観性を持った診断や予防が非常に困難な状況にある。そこでこれらを克服するために、妥当性のある有用な診断バイオマーカーを確立することが重要であると考えられる。しかしながら他の疾患と比べてうつ病疾患の場合、他の疾患で見られるような生物学的な疾患病態について、未だ明らかになっていないことが多い。よって、ヒトうつ病疾患患者の血漿や脳脊髄液成分由来のオミックス解析から様々なユニークな疾患代謝産物が次々と同定されてきているにもかかわらず、動物レベルでの研究手段が限られているため、同定された疾患代謝産物の機能とうつ病疾患の病態との関係性を明らかにすることが困難な状況にある。すなわち、ヒトうつ病疾患の診断や治療経過判断に向けた妥当性の高い有用なヒトうつ病疾患診断バイオマーカーの確立に向けて大きな障害となっているのである。そこで本申請研究課題では、連携研究者である功刀浩博士と服部功太郎博士らによってヒトうつ病疾患患者由来の血漿成分もしくは脳脊髄液成分から同定された。およそ200種類の疾患代謝産物群を網羅的にマウスの脳室・脳実質内投与もしくは血液内投与する。そしてこれら疾患代謝産物投与による脳機能への影響について、動物行動薬理学的試験とin vivo脳機能イメージング法によって、解析を行う。これにより妥当性の高い臨床応用にむすびつく有用なヒトうつ病疾患診断バイオマーカーを確立させる。 本年度も平成29年度に引き続き、ヒトうつ病疾患代謝産物のマウスの脳室・脳実質内への投与とマウスのin vivo 2光子脳機能イメージングによる脳内活動変化の計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他の疾患と比べてうつ病疾患の場合、他の疾患で見られるような生物学的な疾患病態について、未だ明らかになっていないことが多い。よって、そこでこの状況を打開するためには、今まで行われてきた動物行動薬理学的な実験系に加えて、同定された疾患代謝産物によって脳内がどのような生理的変化を起こすのか、脳内反応を直接モニターし、神経生理学的にヒトうつ病疾患診断バイオマーカーを評価することが必要であると考えられる。 以上のような背景の下、平成29年度に確立された方法を用いて、疾患脳代謝産物の中でも特に疾患スコアとの相関が強い疾患代謝産物を3種選定した。これらは、浸透圧ミニポンプを使用して脳室・脳実質内投与された。また、同定された疾患代謝産物の脳室内投与によって脳内がどのような生理的変化を起こすのか、脳内反応を直接モニターし、神経生理学的にヒトうつ病疾患診断バイオマーカーを評価するためのマウスのin vivo 2光子脳機能イメージング法の評価方法を開発し論文に報告した(O’hashi et. al., 2019)。 また引き続き、3種の疾患代謝産物をうつ病と関連が想定されている大脳皮質前頭野の投与を行い、オープンフィールド試験、尾懸垂試験、強制水泳試験、シュクロース嗜好性試験を行い行動学的にもヒトうつ病疾患診断バイオマーカーを評価している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、申請者が発表した論文の方法によって、マウスの脳室・脳実質内に投与された疾患代謝産物によって投与部位の神経活動がどのような変化を起こすか解析中である。今後は、この方法で神経生理学的にヒトうつ病疾患診断バイオマーカーを評価するだけでなく、一般的なうつ病モデル動物にもこの方法を適用し、神経活動がどのように変化しているのか解析する。 in vivo 2光子イメージングやマクロイメージングによって神経回路網活動や構造変化を観察すれば、うつ病疾患代謝産物の機能だけでなく、うつ病の病変部位の特定や病変機序など、動物レベルでうつ病発症のメカニズムを探れるのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の当初、同定された疾患代謝産物投与に対する神経活動変化の画像取得を行い、その数理解析を行う予定であったが、神経活動だけでなく、血流変化や脳内酸素濃度変化など、多種にわたる脳内変化をいくつか見出した。これらの現象は、うつ病疾患の基礎生物学的現象である可能性があるため、研究計画を延長し、引き続き2019年度に行うこととした。
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