研究課題
本研究は入力と出力が定量的に解析出来る運動系の小脳と大脳基底核の神経回路に焦点を当て以下の研究成果を得た。1.小脳発達期の神経回路構築機構:小脳顆粒細胞は生後、増殖、分化、移動し、その後成熟したシナプスを形成する。我々は小脳器官培養と初期顆粒細胞培養系を用い生体と同様、未成熟顆粒細胞は成熟するにつれて静止膜電位が脱分極から非脱分極に移行すること、非脱分極化によってカルシニューリン脱燐酸化酵素が不活性化されシナプスの成熟とシナプス成熟に関わる遺伝子の発現が誘導されること、さらにCaMキナーゼとカルシニューリンの2つのシグナル系が時系列を持って顆粒細胞の発達と成熟化の制御を行っている事を明らかにした。2.小脳神経回路の制御機構:小脳神経回路の顆粒細胞に神経伝達物質の分泌を阻止する破傷風毒素を特異的かつ可逆的に発現するトランスジェニックマウスを作製し、顆粒細胞からプルキンエ細胞への神経伝達を可逆的に完全に遮断出来る全く新しい方法を確立した(可逆的神経伝達制御法:RNB法)。このモデルマウスを用いて運動記憶の典型である条件付き瞬目反射を可逆的に制御し、時系列を持って記憶のメカニズムを解析する事に成功した。この結果記憶の獲得/維持と発現に関わる神経回路が分離出来る事、またプルキンエ細胞が発現に、一方小脳深部中位核が獲得と維持に必須の役割を果たしているという全く新しい事実を明らかにした。3.大脳基底核の神経回路の制御と可塑性の機構:我々は上記RNB法が破傷風毒素遺伝子導入ウイルスを組み合わせる事によって基底核の神経伝達を可逆的に阻止出来る事を示し、この結果基底核の直接路と間接路か運動制御と薬物による運動抑制と亢進にそれぞれ重要な役割を果たしている事を明らかにした。
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