研究概要 |
プロテアソームはユビキチン(分解のための目印を形成する翻訳後修飾分子)をパートナーとする蛋白質分解のための大掛かりな細胞内装置である。本酵素は生命科学史上他に類を見ない巨大で複雑な多成分複合体(分子量2.5MDa,総サブユニット数約100個)である。本研究ではプロテアソームの分子集合機構と分子多様性の解明を基軸に蛋白質分解の生命科学における役割の解明を目指す。第1の課題である「プロテアソームの分子集合機構の解明」については,最近,我々が発見した哺乳動物の会合支援シャペロンであるPAC1/PAC2異型二量体に加えて,本年新たにPAC3/PAC4とプロテアソームとの共結晶による4次構造を決定し,これらのシャペロンの作動機構の解明にも成功した。これらの結果に基づいて我々はプロテアソームの分子集合に関する“逐次的多段階会合モデル"を提唱した。第2の課題である「プロテアソームの分子多様性の解析」については,約10年前に我々は構成型プロテアソーム以外に“免疫プロテアソーム"を発見し,この酵素が細胞性免疫の始動に関与していることを明らかにしたが,本年,第3のプロテアソームとして“胸腺プロテアソーム"を発見した。そして作出した遺伝子欠損マウスの解析から,胸腺プロテアソームがCD8^+リンパ球の分化に必須な役割を果たしていることを突き止めた。その結果,長い間免疫学における謎であった胸腺における“正に選択"の分子機構解明の糸口を掴んだ。その他,オートファジー(Self-Eating:自食作用)の破綻によって生じるユビキチン陽性の封入体形成機構を初めて明らかにした。これらの成果は,細胞内蛋白質の動態(輪廻転生)や病態解明の基盤となると共に,健康科学の発展にも大きく寄与する波及効果が期待される。
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