研究概要 |
本研究では,発がんと免疫応答の制御機構に関連する情報伝達系・遺伝子発現ネットワークについて解析し、これらを繋ぐ情報発現システムを統合的に解明することにより、がんの治療における新しい方法や原理の確立を導くことを目指している。平成19年度において、主には以下に述べるような研究成果が得られている。1.自然免疫系のシグナル伝達機構において重要である転写因子Interferon Regulatory Factor(IRF)ファミリーに関する研究をさらに展開させ、なかでも免疫系の制御のみならず発がんの抑制にも深く関わっているIRF5が、細胞種選択的に細胞死受容体Fasによるアポトーシス感受性を決定することを明らかにした(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 105:2556-2561, 2008)。Fasによるアポトーシスは、多くのがんにおいて変異が見られる重要ながん抑制遺伝子p53非依存性に生じることが知られている。今回の発見はIRF5によるp53非依存性のアポトーシス誘導機構を理解する上でも重要な知見であると考えられる。2.細胞質内に暴露された病原体または自己由来のDNAを認識し炎症性免疫応答を惹起するセンサー、DAI(DNA-mediated activator of IRFs)を同定し(Nature, 448:501-506,2007)、さらにその活性化機構についての詳細を解析した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 105:5477-5482, 2008)。現在炎症と発がんにおけるDAIの役割を解析中である。3.がん細胞におけるp53依存性のアポトーシス誘導についての解析を進め、マウス担がんモデルを用いて、BH3-only蛋白Noxaによる遺伝子治療が有効である事を明らかにした(投稿準備中)。以上のように研究は順調に進展し、新しい展開もみられ、複数の論文として成果を発表することができた。
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