研究概要 |
NPP2はメラノーマ患者などの血中に多く存在し、リゾファチジルコリンからリゾファチジン酸を合成することで、細胞の遊走活性を上昇させ、がんの転移を引き起こす。大阪大学(高木研究室)との共同研究により、動物細胞HEK293Tを用いてマウスNPP2の大量調製に成功した。本試料を用いて高分解能結晶の作成に成功し,PFシンクロトロン放射光において、1.6A分解能の回折データの収集に成功した。さらに、HEK293Tをセレノメチオニン含有培地で培養することにより、セレノメチオニン標識NPP2を調製し、結晶化・データ収集を行い、多波長異常分散法により構造決定に成功した.NPP2は2つのソマトメジンドメイン、ホスホジエステラーゼドメイン、ヌクレアーゼドメインから構成され、触媒部位には2つの亜鉛イオンが配位し、ヌクレアーゼドメインはEF-handモチーフにCa^<2+>が、またNa^+とK^+が配位していた。ホスホジエステラーゼドメインには、複合糖鎖が結合し、ホスホジエステラーゼドメインとヌクレアーゼドメインの配向を固定していた。さらに,14:0、16:0、18:0、18:1、18:3、22:6など様々な鎖長および不飽和度のリゾリン脂質(LPA)との複合体の1.7-1.8A分解能での結晶構造解析に成功した.その結果、短いLPAは疎水性ポケットに直鎖状に結合していたのに対し、不飽和度が高く長いLPAは、湾曲しUカーブして疎水性ポケットに入っていた。さらに,東京大学の化合物ライブラリーチームの長野研究室との共同研究で,NPP2に対する高親和性の阻害剤を4種類が得られており,すでに複合体の結晶を得ている。これらの回折データをPFシンクロトロン放射光において測定し、うち2種の阻害剤において明瞭な電子密度を得ることに成功し、阻害剤がLPAポケットを占拠し、触媒活性を阻害する機構を原子分解能レベルで解明することに成功した。さらに、本結晶構造からスタートして,プログラムMOEを用いて阻害剤の改良を行っている.
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