細胞周期のM期における染色体分配の分子機構をHeLa細胞を用いて解析し、低分子量GTP結合タンパク質Cdc42の作用機構を明らかにし、アクチン細胞骨格を介する経路とPI3キナーゼを介する経路が存在することを示した。細胞増殖因子の刺激によって、静止期細胞の増殖が再開始され、細胞は、S期を経て、M期に至るが、その過程における全ゲノムワイドな遺伝子発現をマイクロアレーにより包括的に解析し、ERK1/2MAPキナーゼの役割を明らかにした。ERK1/2は、転写因子E2Fの活性化が起こるまでは、キナーゼ活性が持続していることが必要であり、それ以降は、不活性化しても細胞周期の進行は止まらないことが分かった。また、ERK1/2依存的な遺伝子発現のカスケード反応が存在することを示し、早期応答遺伝子の一過的な発現から、M期制御タンパク質の発現に至るまでの転写因子のカスケード反応の詳細を解明した。さらに、M期への進入やM期の進行に必須の役割を果たす遺伝子群の転写調節においてNF-YとMybという二つの転写因子が極めて重要な機能を担っていることを示した。これらの結果は、ERK1/2MAPキナーゼの細胞周期の進行における役割を明確に示したものとして重要であるばかりでなく、細胞分裂期の制御において、タンパク質の生成と分解のレベル以外に、転写のレベルにおいても必須の調節機構が存在することを示した点でも意義がある。ERK1/2MAPキナーゼの増殖因子刺激依存的な活性化調節において重要な役割を果たす因子であるSproutyの解析を進め、Sproutyの新しいターゲットを発見した。すなわち、Crk-Lというアダプター分子が、Sproutyのチロシンリン酸化依存的に結合することを示した。その際の、Sproutyとの結合には、Crk-LのSH2ドメインとSH3ドメインの双方が必須であることも明らかにした。この結合の細胞周期進行制御における役割を解析している。
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