研究課題
がん化の過程をコンピューター上で再現するシステムの構築へ向けて研究を続けている。本年度は、悪性黒色腫や甲状腺がん、大腸がんなどで高頻度に変異の認められるBRafにつきその情報伝達のメカニズムを解析した。BRafは全体としてはcRafと非常に高い相同性を有しているが、そのN末端側にBRafに特徴的な約100アミノ酸からなる領域(BRSR)を有している。BRafの構造変化をモニターするFRETプローブを用いて解析し、以下の知見を得た。(1)BRafもcRaf同様に、刺激前は不活性型閉構造、刺激後は活性化型開構造をとる。(2)活性化型開構造をとるにはRasに結合することが必要である。(3)BRSRはBRafどうしのホモダイマーおよびcRafとのヘテロダイマーの形成を司る。(4)BRSRによるダイマー形成にはPLC依存性の細胞内カルシウムの動員が必要である。(5)ダイマー形成により、Rasへの親和性が増強し、細胞膜上への移行が促進される。これらの結果を昨年度報告したシミュレーションモデルに導入し、Rasの活性化が見られなくとも、細胞内カルシウムの増加によりRaf、MEK、ERKの活性化が観察されうることをインシリコで確認した。この結果は、上皮細胞増殖因子受容体から伝播される細胞増殖シグナルが、Rasを介する経路とカルシウムを介する経路とに一旦別れた後、BRafのレベルで合流することを示している。このような情報の分枝化や再合流は、細胞増殖シグナルの不規則な発火を抑え、増殖シグナル伝播の信頼性を上げるものと考えられる。また、この結果は、BRafがcRafよりもがん化能が高い理由の少なくとも一部は、カルシウムシグナルにより活性が増強される性質を有していることから説明できることを示しており、抗がん剤とカルシウム拮抗薬との併用ががん治療に有用ではないかと示唆するものである。
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