研究概要 |
増殖因子刺激情報伝達系のシミュレーションモデル構築のために、FRETプローブの作成と、モデル構築とを並行して行った。まず、リン脂質PIP3,PI(3,4)P2に対するFRETプローブおよびセリンスレオニンキナーゼAktに対するFRETプローブを作成した。増殖因子刺激情報伝達系のモデルとしては、神経細胞増殖因子により刺激されたPC12細胞を使った。この系において、リン脂質代謝系と低分子量GTP結合蛋白とのクロストークについて解析を行った。その結果、Rac1およびCdc42と、PI3キナーゼとの間にはポジティブフィードバックループとネガティブフィードバックループの両者が同時に存在することがモデル構築により明らかとなった。そこで、そのネガティブフィードバックループの実体解明を試み、PIP3-5'フォスファターゼの一つSHIP2が、PC12細胞における神経突起の数を決めるのに重要な働きをしていることが明らかとなった。一方、上皮細胞増殖因子受容体によるPI3キナーゼ情報伝達系の下流因子として重要なAktの活性化機構については、以下に示す知見を得た。PI3キナーゼにより産生されたPIP3およびPI(3,4)P2により、Aktがまず細胞膜ヘリクルートする。このAktおよびPIP3を足場としてPDK1が細胞膜へ局在化する。以上のように、本年度の研究により増殖刺激におけるG蛋白、リン酸化酵素、およびリン脂質代謝系の間のクロストークが明らかになった。
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