がん原遺伝子産物であるc-Srcチロシンキナーゼは、ヒトの様々な悪性化したがんにおいて発現上昇や活性化が認められることから、がん悪性化形質(浸潤・転移・血管新生など)の発現と強く関連することが古くから指摘されている。しかしながら、がんの進行に伴うc-Srcの活性化機構やがん形質の発現機構およびその制御機構に関しては未だに不明な点が多く残されている。本研究では、細胞膜ミクロドメイン「ラフト」に局在するアダプター蛋白質Cbp(Csk binding protein)によるc-Srcのがん化能抑制機構、および、後期エンドソームのラフトに局在する新規アダプター蛋白質p18を介するc-Srcによるがん悪性化機構の解析を行い以下の成果を得た。1)Cbpが活性化したc-Srcをラフトに捕捉することによってそのがん化活性を抑制することや、種々のヒトがん細胞でCbpの発現が低下していることを見いだし、Cbpががん抑制遺伝子として機能する可能性を示した。また、他のSrcファミリーキナーゼも同様のCbpによる制御を受けることや、コレステロールの賦与によってもがん形質が抑制されることから、ラフト自体ががん悪性化に対して抑制的に作用することを示した。2)Cbpの遺伝子発現がSrcのみならずRasによるがん化でも抑制されることや、ヒストンの脱アセチル化阻害剤などで発現抑制が解除されることなどが観察され、Cbpの発現がゲノムのエピジェネティックな変化により制御されることが明らかとなった。3)新たなラフトアダプター蛋白質p18のノックアウトマウスおよびp18欠損細胞の解析より、p18が後期エンドソームにMAPキナーゼ経路をアンカーすることによってエンドソーム系の恒常性の維持において必須の役割を担う分子であることを明らかにした。また、SrcおよびRasによるがん悪性化形質発現機構においてもp18を経由するMAPキナーゼ経路が重要な役割を担う可能性を示した。
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