生体内におけるピロリ菌CagAの発癌活性を検証するため、CagAを全身性に発現するcagA遺伝子トランスジェニック(cagA-Tg)マウスを作製した。得られたcagA-Tgマウスでは、生後12週までに上皮細胞の過増殖にともなう胃壁の肥厚が認められ、生後72週までに一部のマウスから胃癌、小腸癌が発症した。さらに、cagA-Tgマウスでは中等度の顆粒球増多症が認められ、生後72週までに一部のマウスに骨髄性白血病ならびにB細胞リンパ腫が発症した。一方、チロシンリン酸化されない変異型CagAを発現するトランスジェニックマウスでは腫瘍発生などの異常は認められず、細胞癌化にはチロシンリン酸化非依存的CagA活性に加え、チロシンリン酸化依存的活性が必要であることが示唆された。なお、cagA-Tgマウスに認められる血液系悪性腫瘍のレパートリーは、CagAの標的であるSHP-2の点変異により引き起こされるヒト血液癌のレパートリーと一致する。以上の結果から、ピロリ菌CagAは細菌由来の初の癌タンパク質であることが個体レベルで明らかにされた。 CagAの新たな標的分子として、上皮細胞極性制御のマスターレギュレーとして知られるPAR1b(partitioning-defective 1b)/MARK2(microtubule affinity-regulating kinase2)セリン/スレオニンキナーゼを同定した。CagAとの結合の結果、PARlbのキナーゼ活性は抑制され、上皮細胞のタイトジャンクションならびに頂端側-基底側細胞極性が破壊される。細胞極性の消失は多くの上皮癌に共通した特徴であり、CagAによる上皮細胞極性の破壊が胃発癌プロセスを促進する可能性が示唆された。
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