炎症とそれに伴う換気血流不均等は肺がんの発生と進展に関与すると考えられる。我々はヘム分解系の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ2(HO-2)の欠失(-/-)マウスの解析から、HO-2が適正な換気・血流比の維持に関与することを発見した。そこで、HO-2が関与する低酸素応答の分子機構を解析し、以下の成果を得た。 1.ヒト小細胞肺がん細胞(H146)とヒト赤芽球系白血病細胞(YN-1)を低酸素(1%O_2)下で培養し、HO-2の発現変化を解析した。小細胞肺がん細胞ではHO-2の発現変化を検出できなかった。一方、赤芽球系白血病細胞では、低酸素によりHO-2の発現が低下し、ヘモグロビン産生細胞が増加することを明らかにした(論文投稿中)。 2.低酸素環境におけるHO-2の発現誘導。マウスを空気下および10%低酸素下で飼育し、心肺における誘導型のHO-1とHO-2の発現変化を比較・検討した。ウェスタンブロット解析により、低酸素(10%酸素)曝露4週間後のマウス心臓においてHO-1とHO-2タンパクの発現増加を認めた。特に、肺静脈心筋において両タンパクは増加し、肺循環系における重要性が示唆された。 3.低酸素換気応答に関与する新規因子を探索する目的で、種々系統のマウスを無麻酔・無拘束でボディープレチスモグラフ内に入れ、空気、10%酸素あるいは10%炭酸ガス呼吸下で即時換気応答を測定した。その結果、肺がん高発マウスとして知られるSWR/JマウスがHO-2(-/-)マウスに匹敵する低酸素換気応答の低下を呈した(投稿中)。 4.創薬の標的となるHO-2の機能発現に関わる分子を同定するため、Yeast two-hybrid法とタンパクチップ解析法によりHO-2と相互作用する分子を探索した。それぞれの方法により、ヒトHO-2と相互作用する興味深い分子を複数同定した。各分子の詳細を解析中である。
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