研究概要 |
多くの細胞成長因子はPI3キナーゼを活性化し、PI3キナーゼはホスホイノシチド-4,5-2リン酸(PIP2)をホスホイノシチド-3,4,5-3リン酸(PIP3)に変換し、細胞増殖亢進、細胞死抵抗性に働く。PTENは主にホスホイノシチド-3,4,5-3リン酸(PIP3)を主な基質とするホスファターゼで、PI3キナーゼの作用を負に制御する癌抑制遺伝子である。さらに、PTENの先天性のヘテロ変異はCowden病などの、過誤腫を呈し、悪性腫瘍を高頻度に合併する疾患群を呈することが報告されている。 平成17年度には血管内皮細胞特異的においてPTENをヘテロ欠損させると、血管新生因子に対して感受性が高まるために、腫瘍血管新生が亢進して、腫瘍の進展速度が加速することから、ヒトCowden病などでは、腫瘍易形成性であることのみならず、一旦腫瘍が形成されると、腫瘍血管新生が高まるために、腫瘍の進展が加速する危険性を明らかにすることができた。またPTENをホモ欠損させると、種々の血管新生因子や、その受容体などの発現異常をひきおこし、血管内皮細胞に壁細胞や血管平滑筋細胞がうまく集積できず、マウスは血管のリモデリング異常のために、出血を起こし、全例胎生致死となった。このように血管内皮細胞の分化・発生にPTENは必須であることを見出した。さらに我々は、PI3Kα(p85α)やPI3Kγ(p110γ)欠損が、PTEN欠損による発現形を部分的に回復させることができることから、PI3Kアイソタイプ特異的な阻害剤が腫瘍血管を標的とする治療に奏功する可能性を示すことができた。 さらに、骨格筋特異的なPTEN欠損は、インスリンの作用を増強させるために、II型糖尿病モデルマウスにおける高血糖を改善させることから、今後PTEN経路を標的とする治療方法がヒトII型糖尿病の治療に奏功する可能性を示すことができた。
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