研究概要 |
多くの細胞成長因子はPI3キナーゼを活性化し、PI3キナーゼはホスホイノシチド-4,5-2リン酸(PIP2)をホスホイノシチド-3,4,5-3リン酸(PIP3)に変換し、細胞増殖亢進、細胞死抵抗性に働く。PTENは主にホスホイノシチド-3,4,5-3リン酸(PIP3)を主な基質とするホスファターゼで、PI3キナーゼの作用を負に制御する癌抑制遺伝子である。さらに、PTENの先天性のヘテロ変異はCowden病などの、過誤腫を呈して悪性腫瘍を高頻度に合併する疾患群を呈することが報告されている。 平成18年度にはNKT細胞においてPTENを欠損させると、成熟NKT細胞が減少し、単位細胞あたりのNKT細胞の増殖能・IFNγ産生能などの機能が低下した。これらPTEN変異による生体への影響を明らかにするために、NKT欠損マウスに野生型またはPTENヘテロ欠損したNKT細胞を移植し、これらの個体において、メラノーマ細胞の肺への転移を検討したところ、野生型のNKT細胞を移植したときにはメラノーマの肺転移が減少したが、PTENのヘテロ変異したNKT細胞を移植しても肺転移の抑制効果はほとんどみられなかった。これらのことからPTENのヘテロ変異した個体(Cowden病)では、癌の発症頻度が加速されていることのみならず、これらの個体では一旦癌が発症した後も、腫瘍免疫監視機構が障害されているために、癌の進展が加速する危険性のあることを明らかにすることができた。 また膀胱上皮でPTENを欠損させると乳頭状膀胱癌が自然発症すること、ヒト膀胱癌においても早期の表在性乳頭状膀胱癌や進行膀胱癌で、高頻度なPTENの発現減弱〜消失があることを見出した。
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