大Maf群転写因子のひとつであるc-Mafは、多発性骨髄腫において過剰発現し、腫瘍発生に関与している可能性が報告されており、ヒト腫瘍での機能が注目されている。しかし、他の腫瘍発症におけるc-Mafの機能については、ほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、T細胞特異的にc-Mafを過剰発現するトランスジェニックマウスを用いて、T細胞系腫瘍におけるc-Mafの機能を解析することを目的とした。始めに、c-MafトランスジェニックマウスのT細胞分画を解析したところ、胸腺、脾臓において、double negative(CD4^-、CD8^-)T細胞の割合の有意な増加がみられ、T細胞の分化異常が観察された。また本マウスを長期間飼育すると、脾臓を始めとする全身各臓器へのリンパ球浸潤を認め、リンパ腫の発症が確認された。この浸潤リンパ球の多くは、異型を示す大型の細胞であり、免疫染色やFACSなどの解析から幼弱なT細胞性であることが示された。ヌードマウスへの移植実験とTCR再構成の解析から、これらの細胞は単クローン性の腫瘍であることが確認された。c-Mafは転写因子であることから、腫瘍細胞における標的遺伝子を同定するためにRT-PCR解析を行ったところ、ARK5やcyclin D2、integrinβ_7の発現の亢進を確認した。ARK5は、腫瘍形成と転移を加速することが報告されており、本リンパ腫においても重要な機能を果たしていると考えられた。さらに、ヒトT細胞リンパ腫におけるc-Mafの関与を解析するために共同研究により、ヒトT細胞リンパ腫の解析を行ったところ、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)において、c-Mafの過剰発現が認められた。以上のことから、c-Mafは、マウスおよびヒトのT細胞性リンパ腫の発症に関与していることが示唆された。
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