今年度は、Tobファミリー蛋白質ならびにTobファミリー会合蛋白質の機能についての研究を進めることを計画した。特にTob-NOT複合体に注目した研究から以下の知見を得た。 (1)Tobファミリー蛋白質ANAを欠失するマウスの解析を進めた。またANAの発現が肺腺癌で低下していることが多く見られることを見出し、ANA欠失マウスでの肺腺癌発症に注目した観察を進めている。 (2)NOT複合体は、以前からCCR4-NOTとして解析されてきた蛋白質複合体で、転写系で機能することが知られている。Cnot1〜10とCnot6Lをその構成成分としている。この中でも、Cnot6やCnot7はdeadenylase活性を有することが知られていたが、今回Cnot6に類似するCnot6LがCnot6やCnot7同様にdeadenylase活性を持つことを示した。さらにCnot6Lの生物学的機能や細胞増殖制御との関わりを探るためにRNAi法による発現抑制や遺伝子欠損マウスの作成を進めてきた。これまでにRNAiを用いたCnot6L発現抑制によって、NIH3T3細胞の増殖が著しく阻害されることを見出した。Cnot6L RNAiにより増殖が抑制された細胞に、RNAi抵抗性でdeadenylase活性を有するCnot6Lや、deadenylase活性を持たない変異型Cnot6Lを発現させることにより、Cnot6Lによる細胞増殖調節能がdeadenylase活性に依存していることを示した。また、Cnot6L発現抑制細胞ではG0/G1期の細胞が増加し、細胞周期制御蛋白質p27の発現レベルが上昇していた。さらに、Cnot6Lは少なくともp27mRNA特異的分解活性を介して増殖制御に関わることを示唆する結果を得た。 (3)さらに、Tob-NOT複合体に会合するNdr2キナーゼの機能解析のために特異抗体を数種類作成した。そのうちのひとつはSer282がリン酸化されたNdr2を、また別のひとつはThr442がリン酸化されたNdr2を認識する。さらにNdr2キナーゼがオカダ酸処理により活性化されることを示すとともに、その結果Ndr2のSer282とThr442がリン酸化されることを特異抗体を用いて明らかにした。このリン酸化の意義については現在検討中である。
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