造血器腫瘍は、ゲノム・エビゲノムの異常により、造血前駆細胞の遺伝情報システムが変更され細胞の増殖・細胞死の異常を来す結果、発症に至ると考えられる。そこで、本研究では、SNPアレイを用いた造血器腫瘍のゲノム・エビゲノム異常の大規模な解析を通じて、造血器腫瘍の発症に関わる遺伝子情報システムの同定作業を進めている。本年度は、昨年度に解析した983例に加えて、500例以上の造血器腫瘍検体の解析を新たに追加するとともに、正常細胞の混入した患者検体においても高感度にゲノムの異常を検出することを可能にする解析システムAsCNARを新たに開発し、これを用いて1500例以上のSNPアレイデータを解析することにより、造血器腫瘍におけるゲノムコピー数異常およびアレル不均衡の網羅的な解析を行った。これらの網羅的な解析を通じて、多数の標的遺伝子の候補が同定された。例えば、400例の小児急性リンパ性白血病(ALL)の解析からは、小児ALLがゲノム異常のパターンから異なるサブタイプに分類可能なこと、また、B細胞分化に重要な役割を担うことが知られているPAX5遺伝子が染色体転座により複数の遺伝子と融合遺伝子を形成し、これらの融合遺伝子産物がドミナントネガティブにPAX5の機能を抑制することを見いだした。また、骨髄異形性症候群の解析では、従来報告されている不均衡型の染色体の異常の他に、コピー数異常を伴わないアレル組成の異常(Uniparental disomy : UPD)が多くの症例(30%)で見いだされることが、AsCNARを用いた解析で初めて明らかとなり、UPDの集積する領域から、cMPLの活性化型変異をはじめとする新たな活性化型変異が同定された。現在1500例の解析から、多数の標的遺伝子の候補が見いだされており、これらの領域から真の標的遺伝子を同定し、その造血器腫瘍発症への機能的意義を明らかにすることが次年度の課題である。
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