造血器腫瘍は、ゲノム・エビゲノムの異常により、造血前駆細胞の遺伝情報システムが変更され細胞の増殖・細胞死の異常を来す結果、発症に至ると考えられる。本研究では、SNPアレイを用いた網羅的なゲノムコピー数異常およびアレル不均衡の探索とマウスモデルを用いた手法により、造血制御の機構の解明とその異常としての造血器腫瘍発症機構の解明を試みた。昨年度の解析から、骨髄異形性症候群で片親性二倍体(UPD)によるゲノムコピー数異常を伴わないヘテロ接合性の消失(LOH)が高頻度に認められることを報告したが、本年度は11qに集積するUPDの領域より、11qUPDの症例で特異的に変異を生じているmds11遺伝子を同定した。変異mds11遺伝子を導入することにより、NIH3T3は強くトランスフォームすること、また、マウス造血前駆細胞に導入することにより著明なreplating活性の延長が認められること、さらに変異mds11蛋白は細胞内で強くリン酸化されており、Aktの恒常的な活性化が認められることから、同変異はドミナントに作用する変異であることが示された。一方、同遺伝子を欠失するマウスでは、造血幹細胞分画の増加が認められ、髄外造血を生じて骨髄増殖性疾患の表現型を呈することから、同変異蛋白は正常mds11遺伝子に対してドミナントネガティブに作用し、この活性に基づいて、同遺伝子領域のUPDを獲得したクローンが選択される可能性が示唆された。一方、マウス胸腺細胞の網羅的な発現プロファイルの解析により、マウス胸腺細胞の分化に関わる遺伝子としてduxl遺伝子を同定し、同遺伝子がRunx1遺伝子の下流シグナルの制御の一端を担っていることを明らかにした。現在、そのリンパ球系腫瘍の発症への関与を検討中である。
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