造血器腫瘍は、正常な造血系の制御システムの遺伝的な異常による破綻として発生する。本研究では、このような造血系制御の異常を造血器腫瘍の綱羅的なゲノム解析を通じて明らかにすることを目的としている。本年度は、170例の骨髄異形成症候群(MDS)のSNPアレイによる網羅的なゲノム異常の探索により、新たな遺伝子変異を同定し、その造血制御における機能を解析した。すなわち、170例のMDSのゲノム解析により、MDSはゲノム異常の観点から、いくつかのサブグループに分類できることを示し、このうち11qUPDの異常を有する一群の腫瘍に共通する遺伝子変異として、c-Cb1遺伝子変異を同定した。c-Cb1は11番染色体長腕に存在し、一つのアレルに生じた変異がUPDによって重複するとともに、対側正常アレルは脱落する。c-Ch1の遺伝子変異はリンカー/RINGフィンガードメインに集積し、これによって、c-Cb1の有するE3ユビキチンリガーゼ活性が消失するとともに正常c-Ch1のE3ユビキチンリガーゼ活性を抑制する。c-Cb1変異体は、サイトカイン刺激後のチロシンキナーゼの不活化を阻害することにより、過剰な増殖シグナルが伝達されると考えられた。実際c-Cb1のノックアウトマウスでは、造血プールの拡大と髄外造血が生じており、変異陽性例に認められるような骨髄増殖性疾患(MPD)ないし慢性骨髄単球性白血病(CMML)を模倣する表現系が観察された。以上より、c-Cb1変異は、正常の造血前駆細胞のサイトカイン感受性を増強することにより、MDS/MPDの発症に関与ずる可能性が示唆された。
|