H21年度の研究においては、昨年度までに同定した骨髄異形性症候群/骨髄増殖性疾患(MDS/MPN)におけるc-Cb1変異およびB細胞悪性リンパ腫におけるA20変異について、これらの遺伝子の正常造血ないし免疫制御における機能的役割を解析するとともに、変異分子による白血病/リンパ腫の発症メカニズムについて解析を行った。まず、MDS/MPNにおけるc-Cb1遺伝子変異とc-Cb1の造血制御の解析では、c-Cb1遺伝子をホモに欠失するマウスにおける造血前駆細胞の特性を検討するとともに、正常マウスおよびc-Cb1欠失マウスの造血幹細胞分画に変異c-Cb1遺伝子を遺伝子導入することにより、造血因子・サイトカイン刺激に対する細胞増殖、下流シグナル伝達に生ずる変化を検討した。c-Cb1欠失マウスでは造血幹細胞プールの拡大と髄外造血が認められ、またbcr/ab1 transgeneによるCMLモデルにおける急性転化が促進されたことから、c-Cb1が造血系を負に制御する癌抑制遺伝子として機能することが明らかとなった。またc-Cb1変異体は正常c-Cb1のユビキチンリガーゼ活性を抑制し、造血細胞におけるサイトカイン刺激後のチロシンキナーゼ活性を遷延させることによりこれらの細胞のサイトカインに対する感受性を増強することが示された。興味深いことに、このサイトカイン感受性の増強は正常c-Cb1の非存在下で顕在化することが明らかとなった。これらの結果は、c-Cb1変異がほとんどのMDS/MPNの症例で11qUPDにともなってホモ接合を生じている病態をよく説明すると考えられた。一方。悪性リンパ腫におけるA20遺伝子不活化に関する研究においては、広島大学の本田らと共同研究によりA20の条件的欠失マウスの作成を行った。ただし本年度については同マウスの作成のみにとどまり、同マウスを用いた病態解析については最終年度の課題となった。
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