成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)感染者の約5%におこる、悪性化した感染細胞の腫瘍性増殖疾患である。我々のこれまでの動物実験結果から、HTLV-I特異的免疫応答の低下が生体内のHTLV-I量すなわち感染細胞数の増加を招くことが示唆されている。ヒトにおいてもATL患者ではCTLが誘導されにくい。我々は、ATLにおけるHTLV-I特異的T細胞応答の抗腫瘍意義を調べるため、造血幹細胞移植により回復したATL患者の免疫応答を調べた。移植前のATL患者から樹立したHTLV-I感染細胞株を抗原として移植後の末梢血リンパ球を試験管内で刺激した結果、複数の症例のリンパ球培養で、限られたTaxエピトープを認識するTax特異的CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)の著しい増殖を観察した。これらのCTLエピトープとHLAとで構成されるテトラマーを作成し、同患者の新鮮末梢血リンパ球を染色したところ、Tax特異的CTL数が生体内でも増加していることが分かった。これらのテトラマーはTax特異的CTLを検出する道具として有用である。 凍結保存してあった移植前のATL患者の末梢血リンパ球をこれらのテトラマーで染色したところ、非感染者に比して有意に高いTax特異的CTL数を示す例があった。同末梢血検体を培養中で刺激してもCTLの増殖は認められなかったことから、移植前のATL患者にはTax特異的CTLは存在するが抗原刺激に対して不応答のいわゆるアナジーの状態にあると考えられた。以上のことから、Tax特異的CTL応答の活性化はATLの寛解と関連しているが、テトラマー染色陽性細胞数だけでは必ずしもCTL応答の指標とはならないことが分かった。 今後、HTLV-I特異的T細胞機能をより的確に反映できる検定方法を完成させ、免疫とATL発症の関係の全体像を把握するとともに、抗腫瘍免疫賦活方法の条件を動物モデルで検証していく予定である。
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