ウイルス感染および非感染癌細胞における恒常的NF-kappaB活性化メカニズムの解明をめざして、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)Tax発現T細胞株、乳癌、大腸癌および肺癌細胞株を用いた研究を遂行した。TaxをJurkat T細胞株で発現させるとNIKおよびp52発現量が著しく上昇したが、NIK発現をRNA干渉法で低下させても、あるいはNIKの機能喪失変異体発現細胞においても、Taxはp52の発現とNF-kappaB活性化を強く誘導したので、TaxはNIKに依存せず非定型的経路をとおしたNF-kappaB活性化を起こすことが判明した。NIKの発現がmRNAおよび蛋白レベルで上昇しているMDA-MB-231、BT549乳癌細胞、DLD-1、SW480大腸癌細胞、H1299肺癌細胞ではp100からp52へのプロセッシングが亢進し、RelB蛋白質が核内に顕著に存在することが明らかとなった。 MDA-MB-235、H1299細胞でNIK発現をRNA干渉法で抑制すると、NF-kappaB依存性転写活性が低下、内因性遺伝子発現も変化し、軟寒天培地でのコロニー形成能が低下した。癌における恒常的NF-kappaB活性化の根本原因を明らかにするためには、まずその変化が遺伝学的に優性か劣性かについて手がかりを得なければならない。NIK mRNA発現量が多い細胞株と少ない細胞株を融合させた細胞におけるNIK mRNA発現量を調べたところ、興味深いことにほとんどの細胞株でNIK mRNA発現量は融合前と比較して減少し、NIK高発現が遺伝学的に劣性形質であること、すなわち癌細胞ではNIK発現を抑制する機構が障害されていることが示唆された。以上の結果から本研究は、NIKが癌細胞の悪性形質発現に必須なNF-kappaB活性を腫瘍特異的に低下させる治療標的候補となりうることを示唆した。
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