ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである。一方、HTLV-1の近縁ウイルスHTLV-2はATLあるいは悪性腫瘍性疾患の発症に関与しない。HTLV-1とHTLV-2は試験管内でヒトT細胞を不死化し、その効率は同程度であることから、病原性の違いは感染細胞の不死化以降のステップにあると考えられる。HTLV-1とHTLV-2によるT細胞の不死化には、それぞれのトランスフォーミング蛋白Tax1とTax2が必須である。 1、Tax1はマウスのIL-2依存性T細胞株(CTLL-2)の細胞増殖をIL-2非依存性に形質転換するが、Tax2の場合、この形質転換能が著名に低下していることが明らかになった。この違いはTax1のみが持つPDZドメイン結合配列に依存し、Dlgとの結合活性と正に相関していた。PDZドメイン結合配列の有無は分離されたHTLV-1、HTLV-2株のすべてのtax遺伝子に保存されており、HTLV感染症の悪性度を説明しうる現象である。 2、RNA干渉法でDlgの発現を低下させたCTLL-2細胞はTax1による形質転換活性が亢進していた。一方で、Dlgとの結合活性を失ったTax1もCTLL-2を低い頻度で形質転換するが、この形質転換能はDlgの発現を低下させた細胞を用いても変化しないことから、Dlg以外のPDZ蛋白がTax1による形質転換に関与すると考えられる。 3、HTLV-1で不死化したヒトT細胞株のDlg発現量がコントロールのヒトT細胞株と比較して低下していた。DlgがHTLV-1によるヒトT細胞の不死化を負に制御していることが示唆された。
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