ナイミーヘン症候群は若年患者の40%に腫瘍を発生する高発がん性、免疫不全、そして電離放射線高感受性を特徴とするヒト劣性遺伝病である。同疾患ではV(D)J組換えによるDNA二重鎖切断が誘発されるリンパ球細胞に高頻度に染色体異常およびリンパ腫を誘発する。このため、ナイミーヘン症候群はDNA二重鎖切断に起因する発がん過程を解析する優れた研究材料である。ナイミーヘン症候群の蛋白は相同組換えを制御する事を我々は報告したが、相同組換えの蛋白RAD51はDNA二重鎖切断の指標となるH2AXやNBS1が欠損しても損傷部位にリクルートされることから両者の関係は不明であった。今年度の研究により、ヒストンのユビキチンリガーゼが相同組換えの開始に必要であり、このリガーゼがNBS1と結合する事により相同組換えに必須の一本鎖DNAが生成されることが分かった。実際、NBS1蛋白全体あるいはリガーゼとの結合部位の欠損により相同組換えの進行が止まり、ゲノム不安定性が誘発される。このことは大腸がんでヒストンのユビキチンリガーゼの変異が報告されることと一致する。一方、NBS1はゲノム安定化の多機能を有しており、放射線照射などにより誘発されたDNA損傷に伴う中心体異常の安定化に寄与して、結果として染色体異数性の減少により発がん抑制に働く。このNBS1の中心体安定化機構は、従来知られていたDNA複製と中心体複製の非共役以外の直接的な維持機能であることが今回の研究で明らかとなった。
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