研究概要 |
発がん過程における突然変異の原因はよくわかっていない。ヒトゲノムに存在する唯一の遺伝子変異誘導酵素であるAIDのトランスジェニックマウスではTリンパ腫と肺がんが生じたことから、発がんにおける遺伝子変異にAIDが関与する可能性が示唆された。AIDがTリンパ球や肺以外の組織でがんを誘導するか否かはTリンパ腫による早期死亡のため検討するのが難しい。そこでAIDの発現がCreリコンビナーゼの発現に依存するコンディショナルトランスジェニックマウス(AID cTg)を平成17年度に作成した。全身でモザイク的にCreを発現するTNAP-CreマウスとAID cTgとの問に生まれたマウスでは60週間観察すると肝臓腫瘍を発症する個体が頻発することを平成18年度に見いだした。AIDの発現を種々の臓器でウェスタンブロットにより調べると、肝臓での発現がもっとも高かった。そこで、AIDの発現がヒト肝臓癌の原因になる可能性を検討した。ヒトの肝臓腫瘍におけるAIDの発現を検索した結果、C型肝炎ウイルスあるいはB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、肝硬変,肝癌組織においてAIDの発現が充進していることが認められた。また肝臓細胞株にAIDを遺伝子導入するとp53遺伝子の変異が誘導されることを見いだした。このことは慢性肝炎から肝癌が生じる過程に必要な遺伝子変異の一部はAIDを介して誘導される可能性を示唆するものと考えられる。今後、AIDトランスジェニックマウスにおける肝癌の発症頻度や遺伝子変異の解析、ヒト肝臓細胞におけるAID発現誘導機構について検討を進めていく必要がある。
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