研究概要 |
発がん過呈における突然変異の原因はよわかっていない。ヒトゲノムに存在する唯一の遺伝子変異誘導酵素であるAIDのトランスジェニックマウスではTリンパ腫と肺がんが生じたことから,発がんにおける遺伝子変異にAIDが関与する可能性が示唆された。本研究のなかでCreリコンビナーゼにより発現制御できるAIDコンディショナルトランスジェニックマウスを開発し,これとTNAP-Creマウスを交配して生まれたマウスはTリンパ腫による早期死亡がなく,そのほとんどは90週令以上生存した。その約2割に多発性の肝臓腫瘍を認め,腫瘍細胞はαフェトプロテインを発現し,p53遺伝子に変異を蓄積していた。このマウスはAIDによる肝臓発がんの良いモデルであることが分かった。しかし,当初予想していた精巣や卵巣の腫瘍は発生せず,AIDの生理的発現が認められる組織にはAIDによるゲノム損傷を保護する仕組みが存在する可能性が考えられた。また、ヘリコバクターピロリ菌が胃上皮細胞に感染するとAIDの発現が誘導されることを見いだした。このAIDの発現誘導には炎症性サイトカインとその受容体からのNF-kBを介したシグナル伝達経路が関与することを見いだした。AIDを導入した胃上皮細胞株においてp53の変異が誘導されることを示した。さらにヘリコバクターピロリ菌陽性の慢性胃炎並びに胃癌の組織にAIDタンパクを検出した。これらのことから,AIDはヘリコバクターピロリ菌による胃発癌に関与している可能性が示唆された。
|