正常細胞は、テロメア短小化をはじめとする種々のストレスにより増殖を非可逆的に停止する。この状態は細胞老化と呼ばれ、最近、生体内においても良性腫瘍において見られることが報告され、テロメレースがない正常細胞が異常増殖をしたときに、細胞増殖を抑制するがん抑制機構としての機能をもつものとして注目を集めている。老化細胞は、SAHF(senescence-associated heterochromatin focus)と呼ばれる特徴的なヘテロクロマチンを形成し、これが老化細胞特徴的な遺伝子発現や細胞増殖停止の非可逆性に寄与するものと考えられている。しかし、SAHFがどのようなクロマチン構造をとり、どのようにして老化細胞において形成されるのかは不明のままであった。本年度の本研究において、我々は、1)多数の核内ヘテロクロマチン凝縮巣として見られるSAHFが、それぞれの染色体がそのテリトリーにおいて凝縮したものであること、2)老化細胞においては、リンカーヒストンH1が細胞から完全に消失し、リンカーDNA結合蛋白質であるHMGA2が増加しており、リンカーDNAに結合する両者の相対的な量の変化によりSAHFが形成される可能性を示した。ピストンH1は生物種間で高度に保存されており、それが消失することは精子形成過程以外には知られていない。従って、本例は体細胞においてH1が消失することをはじめて示したものであり、また、H1が細胞老化の指標として用いることができる可能性を示している。
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