細胞分裂にともない染色体数が変化するCIN(chromosomal instability)タイプのゲノム不安定性は、ガン発生・進行と深い関わりがある。染色体分配の監視機構、スピンドルチェックポイントは、その欠損によりCINタイプの不安定性を引き起こす。本研究では、このチェックポイントの機能中枢であるMad2に注目し、この活性を制御するシグナル伝達系を解明したい。 p31cometはMad2タンパク質に結合し、その高発現がスピンドルチェックポイントを強制的に解除することなどから、スピンドルチェックポイントの解除過程に機能しているものと推察している。17年度はp31cometに結合するタンパク質としてダイニン中間鎖を同定し、さらにダイニン中間鎖を欠損する細胞が有糸分裂中期から後期へ遷移できないことを示した。 p31cometとダイニン中間鎖が協調してチェックポイントの解除に機能することを示唆する結果である。 また、さまざまな紡錘糸阻害剤で処理した細胞においてスピンドルチェックポイントを強制的に解除し、細胞の挙動を観察した。重合阻害剤であるノコダゾールで処理した細胞はスピンドルチェックポイントを解除することにより多くの4倍体細胞を生成し、これらの細胞が生存可能であること、また脱重合阻害剤であるタキソールで処理した細胞はチェックポイントの解除により多数の微小核を形成し死滅することを見いだした。これらの結果は抗癌剤として多用される紡錘糸阻害剤が、その作用機序よって細胞に異なった影響を及ぼす事を示唆する。
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