C型肝炎ウイルス(HCV)感染より引き起こされる慢性肝炎は肝がん発症のリスクファクターである。またこれまでの臨床研究の成果から、本ウイルスの持続感染が疾患の病態の進展に寄与することが明らかである。本研究では、発症予防の観点から、HCV複製を阻害する物質の探索を行い、サイクロスポリンがウイルスゲノム複製を強く抑制することを明らかにした。また、その機構を解析し、サイクロスポリンの持つ免疫抑制作用ではない働きが複製抑制に重要であることを見いだした。サイクロスポリンはシクロフィリンと結合してその作用を抑制する。抗HCV作用について解析を行い、シクロフィリンBの作用をサイクロスポリンが抑制し、そのことがHCVゲノム複製を抑制することを見いだした。詳細な解析の結果、シクロフィリンBはウイルスポリメラーゼ活性を促進するが、サイクロスポリンによりその過程が阻害されることが、抗HCV作用の原因であると考えられた。近年HCV感染による肝機能不全のために肝臓移植を受ける患者が増えている。これらの患者では、移植後に再び肝炎を発症するために、抗HCV剤を用いた抜本的な治療が必要である。シクロスポリンとインターフェロンを同時投与することで抗ウイルス活性を増強させることができることを培養細胞を用いて示した。さらに免疫抑制作用のないサイクロスポリン誘導体の一つにも強い抗HCV作用を見いだし、本薬剤が慢性肝炎患者に対して抗HCV効果を示すことが期待される。 一方、マイクロRNAの発現の違いとがん化との関連を調べるために、肝がん組織と正常組織との間で比較し、特定のマイクロRNAの発現に違いが存在することを明らかにした。今後変化の見られたマイクロRNAとがん化あるいはがん状態の維持との関連を調べる予定である。
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