C型肝炎ウイルス(HCV)は肝炎発症、および肝がん発症の危険因子である。このような疾患発症の背景には、免疫機構による感染細胞の障害と炎症に加えてウイルス自身が感染細胞の増殖を変化させる結果であると考えられる。本研究では、HCV感染と増殖が細胞に与える効果を調べ、ウイルス複製と細胞の異常増殖との関連を分子レベルで明らかにし、その情報をもとにした治療および予防に役立てる研究を行うことを目的とした。まず、ウイルス複製を制御する脂肪代謝に関与する細胞側要因の解析を行い、脂肪代謝のウイルス複製に与える影響を明らかにした。その為に脂肪代謝および脂肪輸送に関わる種々の因子を阻害剤により処理し、それらの細胞での感染性を調べ脂肪代謝とウイルス複製との関連を探った。 はじめにHCV感染増殖細胞であるヒト肝臓由来のHuH7細胞からの脂肪成分の細胞外への放出を調べた。肝臓細胞からの脂肪成分の放出は主としてvery low density lipoprotein(VLDL)が関与するといわれているので、HuH7細胞からのVLDLの放出とウイルス産生に注目した。VLDLの生成にMTPが重要な働きをしている。HCV感染複製細胞を異なる濃度のMTP阻害剤で処理した後に感染性粒子の細胞外への放出を調べると、低濃度の阻害剤で感染性粒子の産生は抑制された。このときにアポリポタンパク質Bの細胞外放出は抑制され、さらにはVLDLの放出も抑制された。つまり、感染性ウイルス粒子の産生には、VLDLの関与が重要であると考えられる結果を得た。HCV感染者の多くは脂肪代謝異常を示し、脂肪肝の発症と関連する。ウイルス複製が脂肪代謝を制御して効率よいウイルス産生をしていると考えられるが、そのことが個体レベルでの脂肪症発症と関連すると考えられた。これらの結果は、脂肪代謝を人為的に制御することにより、ウイルス複製の制御並びに肝疾患の悪性化も制御出来ると考えられる。
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