研究代表者らは、損傷乗り越え複製(translesion synthesis: TLS)機構を総合的に理解し、その発がんおよび発がん抑制における役割を明らかにすることを目的として、以下に述べる研究を行った。 1.酵母2ハイブリド・スクリーニングにより、ヒトPolηとの相互作用が示唆されるタンパク質の一つとして、ミスマッチ修復因子であるヒトMLH1を得た。組換えタンパク質を用いた実験から、PolηとMLH1とが直接結合することが明らかとなった。ミスマッチ修復においてMLH1はPMS2とヘテロダイマー(MutLα)を形成し、機能すると考えられている。免疫沈降法により、PolηはMutLαとも相互作用することが分かった。特定の細胞周期に同調した細胞を用いた実験により、PolηとMLH1とのクロマチン上での相互作用はS期からG2/M期にかけて増加していた。 2.ヒトPolηと、鋳型にCPDを持ちプライマーの長さの異なるプライマー・テンプレート型オリゴDNAとの共結晶を作成し、X線結晶構造を解析した。その結果、単独では比較的フレキシブルなCPDを持ったDNAが、Polηと複合体を形成すると、ちょうど添え木を付けたような感じでB form DNAの形となって、忠実度の高いTLSが起き易いようになることを見出した。またPolηの活性中心部位にあるQ38をAlaに置換したQ38A変異体では、CPDの5'-Tの相補鎖側でTLSが止まりやすいこと、すなわちQ38はCPDの5'-Tの相補鎖側からの伸長に重要であることを構造の面からと生化学的な解析とから明らかにした。一方、PolηのR61をAlaに置換したR61A変異体では、野生型に比べてむしろ複製の忠実度が上昇すること、しかしTLS活性は低下することを見出し、R61は多少忠実度を犠牲にしてもTLSの効率を高く保つために重要なアミノ酸残基であることを示した。
|