これまでの我々の研究から、酸素呼吸を行う大腸菌での自然突然変異の重要な原因として酸素ラジカルによる自然DNA損傷が浮かび上がってきた。しかしながら、各種の活性酸素種が自然突然変異の発生にどのような寄与をしているのかはほとんど不明である。そこで、活性酸素種消去系やDNA修復系に欠損を持つ様々な大腸菌の変異株を用いて、それらの細胞中で酸素呼吸依存的に誘発される突然変異の詳細な解析を行うことにより、発がんの原因として重要な自然突然変異の発生原因を明らかにすることを目的として研究を進めた。その結果、完全嫌気状態で増殖している大腸菌細胞の自然突然変異を解析することにより、酸素ラジカルの中でもハイドロキシラジカルが自然突然変異の主要な原因になっていることを明らかにした。特に、ホットスポット型の塩基置換とGC→CGおよびAT→TAの非ホットスポット型塩基置換の発生は、ほとんどが酸素ラジカルに起因することが分かった。細胞には、酸素ラジカルに対する各種の防御システムやDNA修復が備わっているにもかかわらず、酸素ラジカルが自然突然変異の原因となっていることが世界で初めて証明されたことになる。さらに、酸化DNA損傷に起因する変異の誘発経路や、その過程でのDNA修復の役割を明らかにするために、rpsL、rpoBおよびthyA遺伝子を標的とする前進突然変異検出系を用いて、一重項酸素、スーパーオキシド、過酸化水素、水酸ラジカルのそれぞれの自然突然変異に対する寄与度を検討した。その結果、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)欠損株で生じる変異は、これまでに信じられてきた過酸化水素や水酸ラジカルによる酸化損傷が原因ではなく、別の特異的な活性酸素種による酸化損傷が原因であることを発見した。
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