Elongin AホモKOで認められたp53およびp38 MAPKの活性化の意義を明らかにするため、両因子の阻害剤であるpifithrin-αとSB203580とをMEFの培養系に加えてみた。その結果、pifithrin-αはホモKO MEFの平坦で腫大化した形態は改善させることなしに増殖性を回復させたが、SB203580は増殖性については部分的にしか回復させなかったが、形態を野生型に近い状態にまで回復させた。したがって、p53は増殖阻害に、p38 MAPKは老化に伴う細胞形状の変化に、より強く寄与していると考えられた。一方、アポトーシス亢進は、両阻害剤存在下でも抑制されなかった。p53の関与については個体レベルでも検討したが、遺伝的背景をp53-nullにしてもElongin AホモKOの胎生致死、胎仔におけるアポトーシス亢進、の何れも救済されなかった。以上から、Elongin AホモKOによる細胞老化の誘導にはp53およびp38 MAPKの両者が関与していると考えられ、一方、アポトーシス誘導には低酸素誘導等、p53を介さない経路の関与が示唆された。続いて、胎生10.5日のホモKOと野生型胎仔との間でDNAマイクロアレイを実施したところ、発現に有意差を認めた遺伝子は、増加群、減少群、ともに0.5%以下だったが、低酸素刺激により誘導される遺伝子群の発現が、ホモKOにおいて顕著に増加していることが判明した。しかし、転写因子HIF-1αおよび-2α蛋白のホモKOにおける有意な上昇は認めず、HIFを介さない経路の関与が示唆された。ホモKO胎仔における低酸素誘導遺伝子発現の活性化の原因として、現時点では、心臓の低形成による心不全によって酸素供給が不足する可能性、あるいは、Elongin Aの標的遺伝子産物が低酸素誘導発現系のどこかとリンクしている可能性、等が考えられている。
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