リン酸化、アセチル化、メチル化、ユビキチン化などのヒストンのさまざまな共有結合修飾は、高度に組織化されたクロマチンの機能変化に関与し、発癌をはじめ、多くの基本的な生命現象に影響を与える。ヒストンH3-K4、-K9、-K27、-K36、-K79、H4-K20に特異的なヒストンメチル化酵素(HMTase)がこれまでに多数同定され、その機能の観点から転写活性あるいは転写抑制に区別されている。最近、複数のグループによりSet9、Smyd2、G9aなどのHMTaseが非ヒストンタンパクをターゲットとし、リジンメチル化を介して機能制御を行うことを報告した。このように、リジンメチル化に対する関心はもはやヒストンにとどまってはいない。SETドメインを持っHMTaseの中でも、Set9はその基質認識において特徴的な性質を有している。Set9は元来、H3-K4特異的なHMTaseとして同定されたが、このSet9は遊離ヒストンH3-K4に対しては強い活性を持つにもかかわらず、ヌクレオソームヒストンH3-K4に対しては活性を有していなかった。その一方でSet9は活性化因子による転写を促進することが示されたが、これはSet9が非ヒストンタンパクの機能を制御し、転写を活性化する役割を持つことを示唆している。平成21年度の本研究において、Set9がp300/CBP-associated factor(PCAF)の複数のリジン残基をIn vitroおよびIn vivoでメチル化することを同定した。本研究では、PCAFメチル化部位の詳細なマッピングを行い、新たに見出されたメチル化部位周囲のアミノ酸配列が既知のSet9認識配列とは異なることを示した。すなわち、Set9がリジンメチル化を介してPCAFの機能を制御している可能性、ならびに更なるSet9ターゲットが存在する可能性を示唆した。
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