細胞周期の停止異常における発がんの可能性を調べるために、細胞周期を回転させるタンパク質群を標的とするSCF型ユビキチンリガーゼであるFbw7のコンディショナルノックアウトマウスを作製した。特にTリンパ球において、特異的にFbw7を欠失させ、どのように細胞周期制御および発がんに影響するかを検討した。その結果、このマウスでは胸腺が過形成を呈し、特にCD4+CD8+細胞が増加していた。細胞周期を詳細に調べると、本来細胞周期が停止すべきCD4+CD8+期の細胞において、細胞周期が停止していないことが明らかとなった。この細胞では本来分解されるはずのNotch1とc-Mycが分解されずに蓄積していた。われわれはFbw7/RBP-JダブルコンディショナルノックアウトマウスおよびFbw7/c-Mycダブルコンディショナルノックアウトマウスを作製し、その細胞周期を観察したところ、前者では依然細胞周期の過剰が認められたのに対し、後者ではその異常が消失していたことにより、c-Mycの蓄積がこの異常増殖の一義的な原因であると考えられた。この過剰増殖はある期間p53の作用によって抑制されているが、p53が変異によって機能が喪失すると、胸腺リンパ腫を発症することが判明した。さらに骨髄幹細胞においてFbw7誘導欠損マウスを作製したところ、GO期の細胞が減少し、Fbw7がGO期維持に関与していることが明らかとなった。さらにこの骨髄幹細胞は移植実験によって長期骨髄再建能が著しく喪失していることが判明した。つまりFbw7によるGO期維持は幹細胞としての機能に重要な役割を持っていることが示唆された。また、このマウスを数ケ月観察すると高頻度にT細胞急性リンパ性白血病を発症することが明らかとなった。これはFbw7が白血病やリンパ腫にとって抑制的に働く因子であることを示す結果である。
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