細胞分裂は染色体と細胞質内の要素を正確に二分する重要なステップである。したがって細胞分裂をひかえたG2期からM期進行の調節機構破綻は細胞の形質にドラスティックな変化を引き起こし、ゲノムの不安定化を誘発する。G2期からM期の進行は(1)タンパク分解、(2)タンパクリン酸化という2つの生化学的イヴェントによって制御されていることが近年の研究により明らかにされつつある。主として、前者においてはanaphase promoting complex (APC)と呼ばれるユビキチンリガーゼ、後者では分裂期キナーゼと呼ばれる一群のリン酸化酵素が重要な役割を演じていることが明らかにされている。本研究はこれらG2/M期における細胞周期進行制御の分子機構の解析とその破綻による腫瘍化のメカニズムを明確にし、最終的にはがん治療のための標的を見出すことを目的として実施した。以下に本年度の主な成果を挙げる。 【1】Aurora-Aキナーゼの腫瘍形成における役割: Aurora-Aを乳腺特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成したところ細胞質分裂異常をきたし4倍体細胞の増加を見たが、p53依存性の細胞死が誘導され腫瘍形成は長期の観察において見られなかった。このマウスをp53ノックアウトマウスと交配したところ細胞死は有意に減少し、腫瘍性変化が見られたが、これらの腫瘍では細胞老化が誘導されp16タンパク質の発現が上昇しているため悪性化することはなかった。 【2】Cdh1トラップマウスの作成:細胞分裂期後期に活性化して様々なタンパク質をユビキチン化-分解に導くAPC^<Cdh1>複合体の機能を明らかにするため、Cdh1トラップマウスを作成したところ、胎生9.5〜10.5日で胎生致死となり、その胎児の解析から造血系の異常に基づくものである可能性が示唆された。
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